※「ミュウツーの逆襲」のミュウツーが話題だったので公開した文章です。「ミュウツー可愛いよミュウツー」以上の事は言っていません。*1
ミュウツーの可愛いポイント
魅力は色々とあるのですがミュウツーはミュウが大好き、というかミュウガチ勢なのがいいですよね。
「ミュウツーの逆襲」において、ミュウから見たミュウツーはあくまで「不愉快な偽物」くらいの存在でしかない*2んですけど、
ミュウツーから見たミュウは「”不確かな自分という存在”の根源」なので(ヘイトと別に)大変執着しているというのが味わい深いです。
覚醒したミュウツーは自らが破壊したニューアイランドで、ミュウを描いた石板の写真に向かって「(私は)お前よりも強いのか?」と問いかけているのに対し、ミュウの方はミュウツーが嵐を起こすに至って初めてその存在を感知する。
ミュウツー仮面
全体としてミュウツーは思春期であり、彼(彼女?)は「己が何者であるか」とか「己がどう認識されるか」についてかなりこだわりがあります。
なので彼はずっとクールで、高圧的で一方的で、さらに相手にやらせた上で*3絶対的な力の差を見せつけたがります。
これらはつまり、ミュウツーは常に絶対者として自分を演出したがっているという事です。
しかし自分のオリジナルであり「人間達によって誕生させられる」きっかけとなったミュウが現れるとその仮面は崩れる。
それまでの冷静さから一転ミュウツーは不意打ちの先制攻撃を仕掛け*4、
周りの連中が「あれは?」「ポケモン…?」等と”あの”ミュウを知らないというミュウツー的に論外な無知っぷりを見せると、「ミュウ…世界で一番、珍しいと言われるポケモン……!*5」なんて解説*6するくらい心を乱す。のですが、
ミュウの方は生まれついての幻のポケモン故に世間一般やニセモノからどう認識されるかなんて事はクソどうでもよく、ロクに相手をしないという一方通行ぶりが非常にいい。
「みゅ?」
「確かに私はお前から造られた……
しかし強いのはこの私だ!本物はこの私だ!!」
「みゅぅ…」
「生き残るのは、私だけだ!!!」
なんて。
ミュウツーのルール
でもミュウツーとしてはそれで済ませることはできません。
彼は本当のところ自らを「ミュウのコピーである」と認識しており、その存在のいわば不正さを「強さ」によって肯定している立場なわけで、そんな対応は許せないし、絶対に認められない。
自分はミュウより強くなければならないし、そのためにミュウは自分と戦って負けなければならない。
それゆえミュウツーは唯一の肉親であるミュウをしつこく追いかけて攻撃した挙句「なぜ戦わない!?戦いを避けるのは私が怖いからか!」とか言い出します。
これが実にかわいい。
(神の如きミュウの心情を正確に捉えることは難しいとしても)あの場面百人中百人が「ミュウは怖いから逃げている」とは認識しないと思うんですが、ミュウツーはそう思ってしまう。
つまりミュウツーはミュウの心情なんて全くわかってないのです。
他人からどう規定されようが己は己であると考えられるような*7思考回路がミュウツーには全くなくて、理解できない。
そしてこの点から(ミュウツーにはミュウが見えてないんですから)「戦いを避けるのは私が怖いから」という思考はミュウツーのものだともわかります。
「恐れられる強さ」という相対的な物がミュウツーにとっての自分であるというわけです。*8
本物は本物だ
最終的にミュウツーの攻撃はミュウを捉え、ミュウもミュウツーに反撃、ミュウツーは望み通りミュウが(自分の価値観である)力比べの土俵に入ってきてくれたことでテンションが上がり「少しは手応えのある相手という訳だな」「どちらが本物か決めるのはこれから、ミュウと私のどちらが強いか、元のお前達と私たちのどちらが強いか」「本物より我々は強くなるように造られている」などとイキる意気込むのですが
この時ミュウは初めてミュウツーと会話する姿勢を見せ「本物は本物だ」「技など使わず体と体でぶつかり合えば本物はコピーに負けない」と述べます。
これは短いながらミュウツーの論理武装と哲学の全てを否定するトンデモ発言で、噛み砕くと
「お前がいくら定義を誤魔化して力で勝る自分が本物だと叫んでも
(=自分は何かのコピーではないという証明を求めても)
お前は最初からコピーであり
そもそもお前の誇る力自体自分のそれより勝るものではない」
みたいな意味合いになります。
お前の理屈は最初から間違ってるし勝つことで己を証明するも何もお前に私は倒せない。
勿論ミュウツーはこれに対してマジギレし両者は本当に殺し合いを始めるわけなんですが、
……まあその後のミュウツーの心理変化はミュウ関係ないからどうでもいいか。
とにかくこれってすごい歪な親子関係でいいですよね。
ミュウツーはオリジンであるミュウを介して己の存在を証明したくて、だからミュウに感情的に主張を何度もぶつけて、なのにやっと貰えた返事が「いや全部違うけど…」みたいな感じ。そりゃ怒りますよ。
ミュウツーの信仰
とはいえミュウは同じ存在であるミュウツーの事を生理的にキモいと思いつつも*9
「本物は本物だ」の時点で「コピーが
ミュウツーの言う本物偽物論は「生き残るのは私だけだ」という言葉からもわかるように
「本物」という唯一無二の座があって、
ミュウはそれを否定、しはしましたが、
別にコピーが劣った命であるとは言ってないし、生きていてはならないとも言ってない。*10
これはどちらが正しいのかというと、仮にミュウツーがミュウを倒した(せた)ところで
ミュウがオリジナルでミュウツーがコピーとして生まれた歴史は変わらないわけですから
「本物は本物だ」という言葉が完全に正しいし、実際ミュウツーの悟った答え*11とミュウの言葉は全く矛盾してない。
そしてまたそこを歪めようとしたミュウツーの主張こそ完全に破綻しているわけです。*12
ただ、ではなぜミュウツーが「オリジナルより強ければ成り代われる」なんて破綻した理屈を振りかざしてまで
「本物だけに生きる権利がありコピーにそれは許されないという真理を力で捻じ伏せ自分達の生きる権利を確立する」みたいな思想に走ったのかというと、
多分(不幸な体験のせいで)誰よりもミュウツー自身が「コピーには、弱い命には生きる権利がない」と思い込んでいた*13ためではないかなと思います。
アイツー*14などに関わる過去のトラウマや道具として造られ使われてきた(強くあることを望まれ、強く造られ、強くあることで評価されてきた)経験からミュウツーにとってその思い込みは半ば信仰に近く、
だからこそその信仰の枠の中で己を規定し、その枠の中でつじつまを合わせて「生きていていい存在」になろうとしたのではないでしょうか。
そしてだからこそ、その思想をミュウに否定されてキレたのです。その信仰が自分の全てで、生きていていい理由でもあるから。
或いはその真理に囚われていればこそ
多分最後の悟りが解消したのはその「真理」の部分なのでは。
要するに?
ミュウツーは捨て子可愛い。
半ば勝手に悟ったような形とはいえ最後に己を容認できてよかった。
我々は生まれた。生きている、生き続ける。
余談
以下はただの感想コーナーです。
エボリューションとオリジナル版の違いで気になった所
台詞では波止場のカモメが波止場のキャモメになっているのが一番有名な所ですが、何よりもミュウに突然世界最強設定が生えてきたのに驚かされました。ミュウツーの価値観の方向性を決定する要因として用意したのかもしれませんが…。
(細かい所では
デザイン面ではミュウツーの鎧がよく言われますが、私個人としてはそれ以上にミュウの石板のデザインを旧版のままにしておいてほしかった。
また動画?について比較すると、全体的にはオリジナルがやや上というか、好みかなと思います。
特にリザードンVSコピーリザードンはアニメ版の方が圧倒的に演出がよかった。
でも「……地球投げ!」のカットは本家超えてると思う
またフシギバナVSコピーフシギバナはリメイクの方が好みであり、エナジーボールを受けたコピーフシギバナが笑うシーンは非常にかっこよかったです。
カメックスVSコピーカメックスはアニメだとカメックスがあまりに噛ませすぎたのでロケット頭突きでぶつかり合うシーンが入ったのがカメックスファンとして嬉しい反面、あの瞬殺ぶりだったからこそコピーの理不尽な強さが引き立っていたのかなとも思え甲乙つけがたいです。カメックスだけに。
ただ全体としては6:4の評価だとしても、ミュウがアニメよりも遥かに「モンスター」らしかった点についてはリメイク版に百億点加算したいなと思います。
「幻のポケモン」ミュウがとてもいい
私は正直ミュウツーをミュウのコピーとしては欠陥品だと考えており、なんといっても人間みたいな事を言い出すのがダメというか、ミュウツーはポケモンである事を除けば完全に人間だとすら思っているのですが、ミュウは肉体も精神もポケモンなのがやはり素晴らしかったです。
真に「ポケモン」であるミュウは自己存在の哲学なんて必要とせず、ミュウツーを排除しようとするのも哲学でなくポケモンとしての本能によるもので、戦いを止めようとしたサトシが巻き込まれて石になろうが泣きもしない。
人間じゃないし、絆も無いから。
もう一体の泣かないポケモンのミュウツーですら「人間が我々の戦いを止めようとした…!?」と動揺を見せていたのにミュウは不思議そうに首を傾げるだけ。
それが大変よかったです。
他のポケモンたちが疲弊し崩れ落ちていく中で強化コピーであるミュウツーと互角に渡り合いいつまでも決着がつかないのもいいですよね。
ミュウツーの強化改造の度合いは他のコピー達とは次元が違うはずなんですけど、ミュウは倒れないし、戦いをやめもしない。むしろ恐ろしいサイコパワーをどんどん溢れさせていく。
あのオーラ状態でミュウツーと何度も激突するバケモノっぽさは後発の伝説・幻のポケモンたちとはまた違った異質な不気味さがあってよいです。*15
そもそも原作ゲームにおけるミュウというポケモンの設定が最高
時を超えるわけでもなく、願いをかなえてくれるわけでもなく、世界を造ったわけでもない、何もしてくれないただ幻のポケモンというのが超然としていていい。
ミュウはミュウツーのパパではありません
ママでもない。
ミュウはミュウツーに対して子への憐憫や愛情を全く感じさせないし、殺せる力量差があったら普通にミュウツーを殺していたとは思うんですが、そういう部分やミュウツーをおちょくっていたのと別に、素で正しい事を言って、ミュウツーの悟りに還元されたのはすごくいいと思います。
でも「そもそも俺の方が強いよ」みたいなこと言ったのは最低だと思う。サイコかお前は。
ミュウツーの悟り
最終的にミュウツーはポケモンと達の涙から命とか生という事を悟り「我々は生まれた……生きている……生き続ける……!」と結ぶわけなのですが、
流石に映画一作目、SF色の強かった時期と言いますか説教を介さずにミュウツーが勝手に答えに至っているのがシャレオツでいいなと思います。
ゼロ年代っぽい感じする。多分作られたの90年代だけど。
涙
ミュウツーの逆襲において(というかミュウツーが悟るために)重要な意味を持っていた涙ですが、幼体期のミュウツーとアイツーとのテレパシーで行われた会話の中に「生き物は、体が痛い時以外は涙を流さないって」「悲しみで涙を流すのは、人間だけだって」「ありがとう、あなたの涙」という台詞があります。
ですのでミュウツーにとっては涙が奇跡を起こした事よりも、コピーとオリジナルが等しく涙を流したことが重要だったのではないかなと思います。*16
(アイツーとの会話の時ミュウツーの精神は涙を流して泣いていたので、ミュウツーは最初から人間だったとも言えます)
ミュウツーの「強さこそすべて」という思想
ミュウとの関係ばっかり書いてしまったので人間との関係にも触れたいのコーナー
道具として生まれ、評価され、使われてきた過去からミュウツーは人間を憎みまた己の存在意義に拘泥するようになったわけなんですが、
そこで価値観として嫌っていたはずの人間の評価基準である「強さ」を持ってきてそれをベースに己を規定しようとするというのが非常に可愛いですよね。(他の価値観をあんまり知らないんでしょうけど)
「最強のポケモントレーナー」を名乗ってみたり、「無駄だ、私はこの星のいかなるポケモンよりも強く生まれてきた」「我々は本物より強くなるように造られている」なんて言ってみたり。
ミュウツー本人は「私のルールは私が決める!」と言っていたものの、ポケモンを奪い取ったり闘技場を作って力を見せつけたりといった振る舞いは全てサカキの所で教わった強者ロールに過ぎません。
そしてその強者ロールにこだわるのも「この星のいかなるポケモンよりも強く造られた」からでしかないのです。
あの時点のミュウツーの「私が決める私のルール」は結局教えられた事の延長を出てなかったんですね。
(体験した事から積み上げていくのは学習の基本ですが、最初に学んだ内容が悪すぎた)
*1:元のタイトルは「ミュウツー、ミュウだーいすき」だったのですが、気取った風にしました。今風に砕けた言い方をするとツーミュウ尊いみたいな言い方になるのかもしれません。
*2:テレパシーで存在を認識しており(不本意にも認識してしまっており)、この世界から消滅して欲しいと思ってはいる
*3:それもわざわざ同条件で勝負して
*4:直前にリザードンの不意打ちを軽くいなし、「ずいぶんと躾の悪いリザードンだな」と述べたのと対照的です
*5:リメイク版では「ミュウ……世界に一匹しかいないと言われている最強のポケモンミュウ……!」というセリフに変更。それまでミュウには最強という設定は無かった(強さなどという尺度で測られていなかった)のですがミュウツーが強さに拘る理由を創るために変えたのでしょうか?
*6:半ば独白かもしれない
*8:或いはミュウツーがミュウに対して恐れを抱いているという線もある
*9:冷静に考えると自分の5倍くらい大きくて骨格も全然違う奴が自分のコピーとか抜かしてる時点でキモくて当然なんですが
*10:哲学とは関係ない部分で殺そうとはしましたが
*11:大雑把に言うとコピーは「何かのコピー」という存在ではなく固有の存在で、オリジナルもコピーも「本物の命」であり、全ての命は生まれに関わらず生きていてよいみたいな奴
*12:まあミュウツーは強くてカリスマがあるので革命指導者みが備わり一見正しいように見えてしまうのですが
*14:弱い命が故に消滅した
*15:ルギア爆誕でのファイヤー・サンダー・フリーザーなんかも天変地異を起こしてはいましたがあれは単純に強大な生命体という感じで、ミュウの見せる底知れない恐ろしさはまた違う
*16:ミュウツーが他のコピーを作った事については賛否ありますが、もしほかのコピーを生み出していなければミュウツーは泣かないしミュウには泣く感性が無いから一生悟れないままだった可能性も……?